無色透明祭Ⅱに投稿された楽曲「MULTITARN」の歌詞と、かんたんな元ネタ説明＋曲紹介です。わかりやすくまとめたページがなかったので叩き台として作りました。
無色透明祭というのはボカロ・UTAUなどの音声ソフトを用いた楽曲を、匿名かつMV・イラストなしで発表するという企画です。企画終了後は作り手を公表しても良いのですが、この楽曲は現時点で作り手などの情報が公開されていません。
以下の情報は多分に間違っている部分があるかと思いますが（たとえば誰がどのパートを歌っているかなどは完全に勘なのでまったく自信がない）、なにか気づいた方がいれば、もっと良いものを作り直してくれると幸いです。
歌詞
【歌愛ユキ】
OEMで保ってるネームと虚勢
お前の鼓動には一切乗っていない個性
借り物の神像 無礼講に置き去り→
時代物の信仰は適当に取り壊し→
ISDB権威性
親類親族動員ey→
長い物に巻かれすぎてその結果がそれか、え？
現状見当甘んじちゃってる「like a XXXXXX」
拡張し続く故に為せるこのmultiturn.
【心華】
だってお前狂ってないじゃん
正気 模造品 粗悪品
ルールのハックにゃ熱心 ご乱心
十中八九は三振
始まりは伝説でも
→「商いなら続ける」で
→焼き増しの芸風
→もうガビガビのjpg
結果並ぶ144pの角砂糖
透明に溶けた中一滴の毒が見せてく幻覚作用
伏せカードに妄想 記号を拾うだけの音楽鑑賞
安直な視線の先に待ち受けるマシュマロン
ほらもうライフも手札も尽きてんじゃん
「どうすんの俺？」ってもう手遅れじゃん
カレイドスコープのつもり涸れ井戸
スコップで掘っても意味ねーじゃん
想像力を欠いた有象無象
創造.......ってかただのプロンプト
付け焼き刃の個性＝着色料
が群れ成して消えてくぷよぷよ
こっちはカービィのブロックボール
全員食って暴走消し飛ばす
変化球上等 リズム地獄ゴールド
完璧乗りこなす
グーストレートで来る那須川天心に
チョキで勝っちゃうバルタン星人
常識破りな勝利の秘訣は自分で考えな
【重音テト】
無色の言葉で荒らすメディア
蛇足にもっと水差して今
愚直な音 迸る場 シルバー
生きるばっか 違った
地団駄踏み荒らす滑稽
無い造詣 内臓pain オーケー
カッケー物だけで魅せる
本心から慢心が透ける
負け癖付いてんの
言い訳とか 若えからええか
うん
いいから聴いてな
意味深な必要はないぜ
愛ゼッタイ 欲無い
よく一回も噛まずに言えるね
「人間じゃないので」
【v flower】
どこかで聴いた音ばっかり
自分の事も分かっていない
コンビニで買えるような薄い思想とスキルを見せびらかしてイキったり
気がつきゃもうぽっくり
もう誰も覚えていない
何処かの誰かとしてまた新しいナリで「初めまして」とか言ったり
与えられたショーケース
動かない心電図
魔貫光殺砲よりもヤバすぎるライム
気がつけば既にやられている
無色透明でお前を刺す
リスクの無い創作がお好き？
次の遊び場に目が移り
またまた消費されてゆく命
誰もオリジナルになろうとしない
JK踊ればハッピー？
money 貰えてlucky？
あなたの頭の中お花畑dirty
鬱病気取りの一般人
一体何千万番煎じ
溜まってったパーセンテージ
上BでKO 俺ルイージ
【初音ミク】
投稿 大好き
パソコン 大好き
外出 嫌すぎ
登り詰めろVOCA富士
半端な気持ちで”弄らないでVSQ！”
ベタ打ちの初音ミクが今日も寝床探すぜ
一見さんでも歓迎中
逆ワンダーフォーゲル同好会
俺はコロナ前から常に#STAYHOME
八月・月中
夏祭りのアウター・リム
お墓参り欠かさない
地縛霊も募集中
変わるよ
まとまり
人の群れも生き物
高望みは躓く
足元見て歩こう
変わるよ
まとまり
人の群れも生き物
高望みもかっこいい
それも人の道
投稿 大好き
パソコン 大好き
外出 嫌すぎ
登り詰めろVOCA富士
俺の船は羽根付き
初音ミクの宿付き
ノアの上に飛び乗る
お墓参り大好き
元ネタなど
主に文脈依存てきなものについて。こういうのは書き残さないとあっさり歴史から忘れ去られるので……。
OEM：Original Equipment Manufacturing。あるブランドの商品を製造しているメーカーが他社に製造を委託すること。ライセンス契約とは似ているがじゃっかん違う（参考）。楽曲制作を分業しているミュージシャンへの揶揄と思われる。
ISDB：Integrated Services Digital Broadcasting。日本のテレビが採用しているデジタル放送方式のこと。「ISDB権威性」からのくだりはマスメディアで活動しているミュージシャンへの揶揄と思われる。
144pの角砂糖：pは動画の解像度の単位「プログレッシブ」。144pは低解像度という意味で、「角砂糖」というのは解像度が低くてポリゴン状に見えることの暗喩か。
マシュマロン：遊戯王のカード。
ライフも手札も：遊戯王の話。
「どうすんの俺？」：オダギリジョーが出演していたライフカード株式会社のCMから。遊戯王の「ライフ」からの連想になっている。
グーストレートで来る那須川天心にチョキで勝っちゃうバルタン星人：百足（ラッパー）がMCバトルで使ったライムのほぼそのままサンプリングらしいが、問題のバトルを見ていないので詳細は不明。なお、この手のライムの原点が、2016年の戦極U-22MC BATTLEでK-razyが放った「首切ります バルタン星人」であるという話はバトルヘッズの間では常識。
無色の言葉で荒らすメディア：ご存知、YOASOBIの「アイドル」のフロウとライムを模倣した部分。なお、HIPHOPの文脈では他人の曲のライムやフロウを真似することがリスペクトになる場合とDISや揶揄になる場合の両方があることに注意を要する。YOASOBIの作曲担当であるAyaseはボカロPとしても著名だが、MULTITARNでは再三にわたりマスメディア寄りのポップミュージシャンをDISっているので、ここでの「アイドル」の引用はAyaseに対する直球のDISといっても良いだろう。もっとも、後述の通り、DISの対象はAyaseのみならずあらゆるボカロ系ミュージシャンに及んでいると思われる。
「人間じゃないので」：ピノキオピーの楽曲「匿名M feat.初音ミク & ARuFa」からの引用。ピノキオピーもボカロ界隈からメジャーへ行ったミュージシャンへの揶揄を頻繁に行うことで知られ、「匿名M」や「ボカロはダサい」がそうした作風での代表曲として知られている。
VSQ：Vocaloid2で用いられるデータファイルのこと（参考）。
曲紹介
HIPHOPのトラック、徹底して韻を踏んだ毒のあるリリック、マイクリレー要素など、ボカロ曲としては非常に珍しい正統派のHIPHOP曲です。内容としても、シーンのレジェンドであるAyaseやピノキオピーに対するほぼ名指しに近い言及や、メジャーに行ったボカロPやTikTokでのバズを狙うボカロP、名義変更したボカロPなど、ほぼ全方向に対して喧嘩を売る痛烈なDISがあり、一時期のピリついたボカラップ/ミックホップシーンを彷彿とさせるものがあります。
韻についても「始まりは伝説 商いなら続ける 焼き増しの芸風 ガビガビのjpg」は独創的な語感踏みですし、「想像力（ououou）を欠いた有象無象（uouuou） 創造（ouou）ってかただのプロンプト（uo-uo）」で「ou/uo」系の音を並べたあとに「着色料（auouou）/ぷよぷよ（uouo）」などちょっと変わった踏み方をしているのも面白いです。
また、「どこかで聴いた音ばっかり」「誰もオリジナルになろうとしない」といった歌詞から思い出されるのは、無色透明祭の第一回で話題となった盗作騒動です。
騒動の詳細については触れませんが、端的にいえばPEOPLE 1の「銃の部品」に酷似した楽曲が投稿され、一時的とはいえ人気になってしまったという出来事です。詳しくはこちらに書かれています。無色透明祭初回での出来事であり、かつ匿名投稿ゆえ責任の所在が曖昧になったということもあって、企画の趣旨と方向性が強く問われた事件でもありました。
「MULTITARN」がこの事件を念頭に置いたものかどうかはもちろん断言できませんが、非常に大きな話題となった出来事なので、背景事情として押さえておく必要があると思います。特にこの曲で歌われている「リスクのない創作」というのは、制作者が表に出ずに済む無色透明祭の本質を突いた指摘でもあり、かつ、匿名でDISを吐き続ける「MULTITARN」自身への自己言及になっている点で重要です。
HIPHOPというのは「リアルであること」を強く要請する音楽です。したがって、「MULTITARN」のようなDIS曲を匿名で発表することがはたしてリアルといえるか、HIPHOPといえるかという問題はあるかと思います。しかし、（おそらく作詞作曲者自身も含めた）ボカロシーン全体に対して攻撃を行う曲であることを思うと、あえて匿名で発表することによりこの曲はポジショントークの危険を免れ、最大の火力を発揮できるのだといえるかもしれません。
作詞作曲者については、椎乃味醂とyanagamiyukiの合作ではないかという説がありますが、確証のあるものではありません。作風からある程度察せる気もしますが、内容が内容なので公にするつもりはないのかもしれません。かつてPUNPEEがRAU DEFにZeebraとのビーフのトラックを提供していたことが数年越しにわかったときのように、何年か経ってからさらっと公開してもらえたら良いと思っています。
