この記事は「おいオタク! 今、言霊少女が熱いぞ!」ということを伝えるために書いた。言霊少女っていうのは美少女キャラがラップするプロジェクトだ。ヒプノシスマイクからむこう、この手の二次元ラップミュージックが隆盛していることを聞き及んでいるオタクも多いことと思う。今回はそんな言霊少女について、日本語ラップのヘッズも、二次元ラップのヘッズも、そしてまだそんなもの知らんわというオタクにも紹介していこう。
というわけで、ここでは言霊少女がいかにすごいかというところを、「スキル」「メロディ」「リアリティ」「ユニット」という四点に分けて説明していこうと思う。
とりあえずこれを聞いてほしい。
【MV】向田らいむ/Amplify My Soul! 言霊少女プロジェクト
ちなみにこの言霊少女という企画、実は生放送とか配信とかでメディアミックスをしているらしいのだけど、筆者は一身上の都合によりあらゆるVtuberの動画を見るのをやめてしまった*1ので音源以外の領域で何が展開されているのかはよく知らない。「コンテンツと向き合う真剣さが足りないんじゃないのか?」と云われたら反論できないんだけど、まぁそのあたりも含めて話していこう。
スキル
ラップが上手い。これが大前提だ。
言霊少女のメンバーの中で一番ラップらしいラップをするのはヴィルヌーヴ千愛梨だと思う。
【MV】ヴィルヌーヴ千愛梨/C.R.E.A.M. 言霊少女プロジェクト
これがC from M double S Goddamn
見下してるつもりが気になってんだろ?
心臓と林檎 一緒に射抜くウィリアム・テル
ど頭からこのテクニカルな韻を出されるのだから、たまらない。そっからも「ファースト・ミッション」「フラストレーション」「ワースト生徒」「カースト制度」という固い韻を連打していく硬派さ。Wu-tang Clanの名曲「C. R. E. A. M.」のタイトルをそのまま持ってきた楽曲だけど、その名に恥じぬハーコーなかっこよさがある。
しかもこのヴィルヌーヴ千愛梨は後述の「Microphone soul spinners! ver.C 」にて、今度は対照的に超ダウナーなトラップの乗せ方を見せたりする。古典から最新式までいけるという幅の広さ。
記事の最初に載せた向田らいむもめちゃめちゃラップが上手い。そもそも名前にライム(韻)ってついてるんだからラップが上手いに決まってんじゃん。*2記事の冒頭でリンクを貼った「Amplify My Soul!」も一筋縄ではいかない。
曲中の「くだらねえ奴 大掃除」のところは日本語ラップ界のレジェンドであるキングギドラの「大掃除」という曲に出てくるフック「この年末 今 世紀末 喰らえ天罰 大掃除」のサンプリングである。恐るべきは「くだらねえ奴」と「喰らえ天罰」で押韻しているところであり、つまり向田らいむはサンプリング越しにステルス韻を隠すという超テクニカルなライマーでもあるのだ。
リリックの完成度、そして歌い手の多彩な歌唱力によって驚くべき完成度の楽曲が仕上がっている。これが第一のポイントだ。
メロディ
向田らいむの楽曲で印象的なのはアップテンポなビートとメロディだ。
言霊少女に参加しているキャラはとにかくラップが上手いというのはさっきも書いた。でもこれはなかなかすごいところで、なぜかといえば音源をつくるうえでは下手にラップにするよりもっとメロディアスな「歌モノ」にしてしまったほうが楽だしそれっぽくなるはずだからだ。
ポップスの歌唱曲ならいざしらず、ラップの仕方を、それも女声ラップを指導できる人材は非常に限られているはずだ。それにキャッチーさを出すのであれば、ラップなんかするより普通に歌った方が手っ取り早い。アイドル歌唱に比べたときのラップ音源のやりづらさはこういうところにある。
【MV】BAE / 「BaNG!!!」 -Paradox Live(パラライ)-
avexのラッププロジェクトであるパラライのこの曲なんかは、ほぼ全編がしっかりとメロディー付けされている。実際問題として「売れるラップ」の花形はこっちといえるかも知れない。さっきのヴィルヌーヴの「C. R. E. A. M.」みたいなのは少数派だ。
ただそれだと「ラップらしさ」が抜けていってしまうところもあり、たいがいの場合は「メロディアスなフック(サビ)」&「硬派なラップ」という折衷的なところに落ち着くことになる。
ヒプノシスマイク「Gangsta's Paradise」/碧棺左馬刻Trailer
例えばRAU DEFがプロデュースしたこの「Gangsta's Paradise」という曲はサビを中心にメロディラインが印象的だが、左馬刻様の声質を活かした図太いラップも入ってる。
他にもFling Posseの「Stella」のように硬派なラップ、流行りのノリ、歌モノが一緒くたになって類稀な調和を生み出す名曲もある。
というようなことを踏まえて一番頭にリンクを載せた言霊少女の「Amplify My Soul!」を聞き直してみよう。フックのメロディとラップの融合に注目してほしい。向田らいむの魅力はライムのみならずフロウの上手さにある。
言い返せない 言い訳できない
意思疎通なんて無理じゃない?
って思ってた 真っ暗いschool day(s)
病んでるstudent
ここは比較的長い韻を語感で踏んでいるところだけど、フロウがしっかりしてるので聞き心地が良い。メロディラインを活かしたラップのお手本のような出来だと思う。アニメ寄りの声質もあって全体としてポップさの際立っているのが向田らいむの特徴だ。
なお言霊少女のメンバーとしては、他にも和ロック調のトラックにポエトリーリーディング風の乗せ方をする与謝野詩歌とか、ポップ調歌モノに強そうな川端ひまわりとかのシングルも2月末に出る。
あと付け足しておきたいのはトラックの良さ。アイマスを始めアニメ・ゲーム・ミュージックに携わってきたメンバーが関わっているだけあってクオリティが高い。ラップの上手さの指標として「アカペラで聴けるか」というところがあるけれど、言霊少女の場合では「アカペラでも聴けるラップ」と「インストでも聴けるトラック」が融合している。とにかく贅沢な音源だ。
リアリティ
ここまであえて避けてきた話題がある。HIPHOPとラップの違いだ。
諸説あるだろうけど、筆者の理解としてはHIPHOPが哲学であり、ラップは手段である。だからラップミュージックがすべてHIPHOPというわけではないし、音楽以外にもHIPHOPの表現手段は存在する。
で、問題は二次元ラップにHIPHOPは存在するのか、というところだ。HIPHOPというのは表現者の生き様と不可分のものであり、特に「リアリティ」が重視される。嘘をついているやつはHIPHOPではないし、HIPHOPは実証性を重んじるところがあるからフィクションではなく「ナマモノ」であることに意味がある。じゃあまったく虚構のキャラクターにラップさせてもHIPHOPって成立しないんじゃない?
ヒプノシスマイクはこの問題を上手く解決している。作中には暗い過去を背負ったキャラクターが多く、貧困や犯罪、家庭環境などに対する不満が滲み出るようなリリックが頻繁に登場する。作詞や作曲にアングラで活動するラッパーやDJを招聘しているところもHIPHOPらしさの担保に繋がっているといえる。
ヒプノシスマイク「麻天狼-音韻臨床-」 / シンジュク・ディビジョン麻天狼 Trailer
シンジュク・ディヴィジョンの楽曲は中でもそうした「暗さ」が顕著だ。
これに対して言霊少女はどうか。しょうじきよくわからない。公式サイトのストーリーとかを見る限りヒプと比べてもかなり虚構性が高いようだし、「不満」の対象となっているのも社会問題ではなく学園内のカースト制度にとどまるようだ。そういうところを見ると「ちょっと行儀が良すぎない?」と思わないでもない。日常生活で目についたあらゆるものをラップするのがHIPHOPなんじゃないか?と思ってしまうところがあるし、あんまり話題を絞りすぎるとすぐに歌うことがなくなりそうだからだ。
と、いいつつも実は公式もそんなことを見越した上でメディア展開しているのではないか?と思う部分もある。それが先述のヴァーチャル配信系の活動だ。言霊少女に登場するキャラクターが自ら生配信する、あたかもラッパーのインスタライブのように。筆者はヴァーチャルライブもインスタライブもしょうじき苦手なのだけど、それによって虚構の存在であった二次元のラッパーが現実に浸食するような現象が起こったらそれはそれで面白い気もする。こういう試みは誰もやってみたことがないから、どうなるか分からない。もしかしたらとんでもない化け方をするかもしれない。
ユニット
ラップ音源を語るうえで欠かせないのはマイクリレーだ。ヒプもパラライもだいたい三人くらいのユニットでマイクリレー楽曲をたくさん出しているし、オールスターでやる長めの曲も楽しい。
しかし言霊少女の場合、現在のところマイクリレーは出ていないし、ユニットというよりも四人のメンバーのソロ活動が主体だ。これもこのプロジェクトの特徴なのだけど、実は3月にユニットCDも出るらしい。その頭の曲が「Microphone soul spinners」である。*3
この曲の面白いところは、各ソロアルバムに各キャラの担当パートだけが切り取られて収録されているところであり、2月現在では各キャラがリリック+フックまでソロで歌うソロバージョンだけを聴くことができる。トラックも各キャラに併せてちょっとずつアレンジがされていたりして面白い。
この曲を聴いて思い出すのはzeebraの楽曲「GOLDEN MIC」のリミックスだ。
ZEEBRA / GOLDEN MIC (REMIX) feat. KASHI DA HANDSOME, AI, 童子-T, 般若
KASHI DA HANDSOME、AI、童子-T、般若が参加し、トリの般若によるパンチライン「ガタガタ抜かすな道開けろザコ 言わずと知れた東京のカオ」で有名な曲。ヒプの山田一郎の曲でもサンプリングされていたりする箇所だけど、「GOLDEN MIC」は各人それぞれがシャウトするフックが最高。「Microphone soul spinners」が新たなる「GOLDEN MIC」たりうるのかは知らないけど、とにかく3月の新譜には期待が高まるばかりだな?
という感じで言霊少女は企画としてまだ動き出したばかりなのだけど、ポテンシャルとして非常に高いものを持っている。今後どういう方向に進むのかはさっぱりわからないけれどとりあえず2月末、3月末に出る新譜を楽しみに待ちたい。