偽史邪神殿

なんでも書きます

MULTITARN / 歌詞+曲紹介など

 無色透明祭Ⅱに投稿された楽曲「MULTITARN」の歌詞と、かんたんな元ネタ説明+曲紹介です。わかりやすくまとめたページがなかったので叩き台として作りました。
 無色透明祭というのはボカロ・UTAUなどの音声ソフトを用いた楽曲を、匿名かつMV・イラストなしで発表するという企画です。企画終了後は作り手を公表しても良いのですが、この楽曲は現時点で作り手などの情報が公開されていません。
 以下の情報は多分に間違っている部分があるかと思いますが(たとえば誰がどのパートを歌っているかなどは完全に勘なのでまったく自信がない)、なにか気づいた方がいれば、もっと良いものを作り直してくれると幸いです。

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法学雑誌と昭和のミステリ作家たち

 佐野洋高木彬光和久峻三、夏樹静子、連城三紀彦……昭和に活躍した偉大なミステリ作家たちの名前をご存知だろうか。そしてかれらが法学専門誌に寄稿していたことを。

 『ジュリスト』『判例タイムズ』など、世間には法学の専門誌というのがいくつもあるが、そのなかでも学生向けに発行されているものがある。もっとも有名なのは、有斐閣の『法学教室』と日本評論社の『法学セミナー』である。誌面の内容としては基本法の論点解説や問題演習、近時の重要判例の紹介などが主だが、これらの専門誌の記事も時代によって変遷を遂げてきた。特に、1980年代をピークとして、推理作家・推理小説を扱った記事が多く見られることは注目に値する。本稿では、これらの記事を概観しつつ、昭和の推理作家・ミステリ作家の横顔に迫っていきたい。

  • 1.『法学教室』とミステリ作家たち
  • 2.『法学セミナー』とミステリ作家たち
  • 3.おわりに
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『ルミナリーズ』登場人物リスト

 エレノア・キャトン『ルミナリーズ』の登場人物リストです。

 書籍に掲載されている登場人物リストが分かりづらいので作りました。基本的には登場した順番に並べています。太字は十二宮(青)/天体(緑)に対応する人物です。一回しか登場しない人物などは除外します。人物情報は主に第一部から、これといったネタバレはありません。

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奇想の解体、虚飾の逃避『凌ぎの哲 雀荘争奪編』感想

 ついに『凌ぎの哲 雀荘争奪編』がリイド社から発売された。連載終了から17年間にわたって単行本化されていなかったシリーズ最終章を、ようやく手に取ることができるようになった。自分も今回、初めてこの話を読むことができた。

『凌ぎの哲』はほんとうに面白い。なかでも「麻雀博打列車編」は世界で最も面白いギャンブル漫画だし、それ以外の部分も圧巻だ。麻雀小説の金字塔『麻雀放浪記』を原作とする漫画は数あれど、これほどまでに大胆な解釈と脚色で独自の世界観を構築した作家は他にいない。

『凌ぎの哲』の優れていたところは、まず『麻雀放浪記』の中でもあまり注目度の高くない部分である「激闘篇」を主軸にしている点である。

麻雀放浪記』は全4部の正典と何作かの外伝で構成されているが、最も有名なのはやはり最初の青春篇だ。出目徳の下で哲が麻雀を学び、ドサ健、女衒の達、上州虎などの名脇役と干戈を交える物語は、なんといっても『麻雀放浪記』の原点にして頂点である。

 青春篇はとにかく面白い。玄人としての主人公のサクセスストーリーでもあるし、次々と強い敵が出てきて、焼け野原から新たなものが生み出されていく期待感がある。みんな貧乏で何も持っていないが、だからこそ何にも縛られず自由だった。しかし『麻雀放浪記』という作品の特殊なところはここからだ。戦後の日本が復興していくに従って、一度壊れた社会システムは再構築され、アウトローたちの天下は終わり、ギャンブラーの肩身はどんどん狭くなっていく。さらに哲も覚醒剤や身体の故障に見舞われて、仲間たちも次々と退場していき、話はどんどん閉塞感の強いものに移り変わっていく。書評家・北上次郎は激闘篇に社会を描く視点があることを高く評価していたが、それは話が進むうちに作中のギャンブラーたちが社会という檻の狭まる中で苦悩していくということの証左でもあった。

 そんなわけで『麻雀放浪記』の激闘篇は暗く重苦しく、さらに言うと初期(青春篇)の哲のイメージとの断絶があるため、なかなか扱いづらいコンテンツであった。そこをあえて扱ったのが『凌ぎの哲』だった。『凌ぎの哲』の序盤の展開は激闘篇と番外篇を下敷きにしており、青春篇のころの哲については直接描かれない。坊や哲は最初から坊やではなくやさぐれてどんよりした目の男として登場する。哲はすでに世馴れてドサ健顔負けの処世術を身につけているが、その姿に覇気はなく、終始、諦観と倦怠を漂わせている。

『凌ぎの哲』は基本的に原作における後半部分の展開を元にすることで、徹底して原作のダークな部分を描いているという点に特徴がある。

 しかし、『凌ぎの哲』が原作のように社会を描く作品かというとそんなこともない。そもそも作者の原恵一郎は「ワシズコプター」に代表されるように奇想の作家である。『凌ぎの哲』にもその作家性は非常に色濃く現れており、リアルな原作に突如としてワンダーランドへの入り口を出現させ、奇想の世界に突入していくことがしばしばある。その最たるものが「権々会編」であり「麻雀博打列車編」だった。

『凌ぎの哲』は原作エピソードの時系列をばらした上で自在に取捨選択し、大胆な脚色をしたうえで再構築している。そのダイナミズムが最大限発揮されたのが、「権々会編」に至るまでの流れである。そもそも原作の権々会は風雲編のラストに登場するものだが、『凌ぎの哲』では哲がシャブ中になる話を激闘篇や番外篇の後に持ってくることで、風雲篇の時系列を一気に後ろにずらすというかなり強引な処理がなされている。これによって『凌ぎの哲』は原作の時系列を遡っていくような展開を見せることになる。

 原作における権々会は時代の流れによって解体される旧時代そのものであり、風雲篇のラストで権々会が解体されたことで、激闘篇で哲が真面目に会社で働きだしたりする展開に繋がっていく。だが『凌ぎの哲』においてはその時系列が逆になり、さらに原作以上に権々会のケレン味を増す演出がされているせいで、かなり異様な状況を呈している。原作小説がどんどん社会派の色を深めていったのとは対照的に、『凌ぎの哲』の世界観はファンタジー色を強め、麻薬的陶酔に落ちていく。

 そしてその次に来るのが「麻雀博打列車編」だが、これこそファンタジーの極致だ。そもそも原作にはまったく登場しない博打列車という設定(原作では列車内で丁半博打をやっていただけ)に加え、『麻雀放浪記』ではなく『牌の魔術師』の登場人物であるブー大九郎を登場させるという脚色、さらに出目徳も絡むオリジナル設定や、あまりにも面白いイカサマのトリックなどなど、原恵一郎の奇想はこれでもかというほど炸裂し、玄人たちの狂宴が繰り広げられる。

 しかしこうした狂宴は虚飾にすぎない。権々会の和尚しかり、ブー大九郎しかり、これらのファンタジー世界は旧時代の老人(それも特に博打に溺れた狂人)たちが作り出した虚飾のワンダーランドにすぎず、現実の世界はそれとは無関係に進んでいく。麻雀博打列車編ラストの「そっちには何もないぜ」という名台詞はまさにその本質をついている。『凌ぎの哲』は原作とはかけ離れた展開になっていくが、それはあくまで現実逃避の結果にすぎず、この世界観は紛れもなく阿佐田哲也の生きた世界観と地続きだ。ただ原作は社会を憎みながらも見つめ続けたのに対し、『凌ぎの哲』は目を塞いだのだ。

 しかし、目を塞いでも世界は消えない。それを描いたのが「雀荘争奪編」だった。雀荘争奪編も途中まではこれまでのシリーズのようにケレン味のある展開が繰り広げられる。敵役のガスには超能力があるようにも見えるし、舞台となる雀荘はまるで幽霊屋敷だ。しかしそうした味付けは所詮虚飾にすぎない。そしてその虚構性を、作中で哲自身が暴き出してしまう。ガスの能力を看破する「換気」の場面がまさにそれだ。これまでの敵たちは知れば知るほど狂気が滲むようないかれた玄人たちばかりだったのに比べ、ガスはあまりにも惨めだ。悲しき過去を背負い、玄人としての異常な執念があるわけではなく、一個の人間としての立ち姿を暴き出されるガスと出会い、哲はそこに奇想の解体を見出す。塞がれた目はこじ開けられ、物語は世界と対峙させられる。

 さらに雀荘争奪編では、かつての(青春篇のころの)哲を思わせるキャラとして森サブが登場する。とうにギャンブラーたちの時代は終わっているにもかかわらず、それに気づかずに意気揚々と戦い続ける森サブの姿は、哲の目を通して見るからこそ悲痛だ。

 そうして雀荘争奪編の哲は虚飾と奇想が解体されてゆく姿を目の当たりにさせられ、変わりゆく世界、移ろいゆく時代と対峙させられる。しかしそれでもなお、哲は「放浪」の道を選ぶ。ここでもやはり哲は逃避を選ぶのだ。麻雀博打列車編のラストと雀荘争奪編のラストとは外形的にはまったく同じだ。しかしその味わいは大きく異なる。原作の激闘篇以降の重苦しさを正面から受け止めた麻雀博打列車編とは対照的に、雀荘争奪編のラストには突き抜けた明るさというか強引にハッピーエンドに持っていこうとする空元気のようなものが感じられる。原作の持っていた重苦しさからもなお逃避しようとするその姿勢は、やはり「逃避」の物語の傑作である映画『幕末太陽傳』の伝説的なラストシーンを思わせる。

 原作『麻雀放浪記』は阿佐田哲也私小説である以上、明確なオチは存在しえない。原作で呈示されたものにどんなオチをつけるかは読者に委ねられている。『凌ぎの哲』においては、奇想を解体し続ける現実社会の圧力から、ひたすら逃避していく(=奇想の世界に逃げていく)という点に決着を見出した。

雀荘争奪編」の出版にはきわめて大きな意義があったといえそうだ。

 

 

 

2017-2022 私的ボカロベストまとめ

 2017年から年末にボカロベストを考えるようになって、今年で六年目になった。自分の中ではボカロと向き合ううえでのルールみたいなものがいくつかあって、それは昔からあまり変わっていないのだが、文章にしたことはなかったので書いてみる。

 2017~2022年の各年ベストの一覧は記事の後半に。

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カルロス・ルイス・サフォン作品 登場人物リスト②

今回は『天国の囚人』の登場人物リストです。

 

リスト①→風の影、天使のゲーム

リスト③→精霊たちの迷宮(未定)

 

 

『天国の囚人』登場人物

 

ダニエル・センペーレ

フェルミン・ロメロ・デ・トーレス

ベルナルダ フェルミンの恋人

ベアトリス(ベア) ダニエルの妻

フリアン ダニエルの息子

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カルロス・ルイス・サフォン作品 登場人物リスト①

 

 カルロス・ルイス・サフォンは『風の影』に始まる失われた本の墓場シリーズの著者として知られている。そしてかれの作品は異常に登場人物が多い。さらに名前が憶えづらい。そのわりに集英社文庫の登場人物一覧はぜんぜん役に立たないし(せめてフルネームで書いてくれよ)、海外のサイトを見てもあんまり良いのがない。

 そこで、個人的に読書をしつつ作った登場人物リストをアップする。いちおうルールとしては複数回登場するネームドキャラを拾っていくということにする。でもたぶんふつうに抜けがあるし、間違いもあると思うから、指摘があればお願いします。

 ひとまず第一弾としては『風の影』と『天使のゲーム』のリスト。それ以後の作品についてはやる気があったらやるかもしれない。

 ネタバレは特にないので初読時にも使えるはず。

 

『風の影』登場人物

ダニエル・センペーレ

父 本作時点では名前不詳

フェルミン・ロメロ・デ・トーレス

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